シネマライフキャリア - Cinema Life Career -

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【映画】あゝ、荒野(後編) 〜振り向くな、後ろには夢がない〜

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ご無沙汰しております。

仕事が忙し、なかなか更新できていませんでした。

 

あゝ、荒野

前編後編含めての感想、とにかく震えた。
新宿という日本の縮図、2021年の日本を表したかのような演出。
新宿を舞台にするからこそ、日本を見ているように思える。

妙にリアルで、その中で不器用なそれぞれの人間模様、またそれぞれの心情変化や行動変化、生きる意味を見つけてもがいていき、自らでレールを作って自分の人生を生きることの尊さ、覚悟が緻密に描かれていて、それこそ感動を超えて震えた。

それぞれに受け入れることが辛く、目を背けながら生きたい過去がある。
過去を変えたいと思っても、変えることができない。
それなら未来を変えられるように一歩を踏み出して、今を少しずつでも変えていき、未来を明るくしていくのがいいのではないか。
なりたい自分に近づけるように悩みながら、考えながら、がむしゃらに努力し、未来を切り拓いていく生き方がいいのではないか。
そんな生き様は人の心を動かしていく。

日本は自由権があるものの、常識や普通の呪縛に縛られていて、なかなか自らの意志を持ち、それをもとに生きていくには難しいこともある。
組織に入るとそこでのルールがあり、あらゆる場所で常識に翻弄されていく。
そんな日本を生きづらい場所として定義し、徐々に常識などに囚われず、自由に自分らしさを表現すること、自分らしく生きていくことの尊さを訴えられているような気がした。

境遇も違えば、過去も違うし、もちろん人柄や性格も全然違う。
それでも、今作の全員が共通していたことが、「自分の芯を持ち、自分の意志で生きていこうとしていること」であった。

良くも悪くも不器用な登場人物たちが、自分の意志を持ち、生きていこうとするのだから、「繋がること」は容易ではない。
彼ら彼女らにとって、「繋がること」のハードルは非常に高い。
中途半端な関係なら繋がれない。

SNS、ネットの発展から表面的に様々な人と繋がることができるようになった現代ではあるが、その一つ一つは希薄になってきている傾向がある。
そんな繋がりの希薄さに、一石を投じるように、「繋がり」の重さを今一度噛みしめようと言わんばかりに警鐘を鳴らしていた。

新次(菅田将暉)は裕二(山田裕貴)への復讐に対しての尋常じゃない憎さを原動力に、健二(ヤンイクチュン)は弱い自分を変えるために、また新次の強さへの憧れを原動力に、よりストイックにボクシングに打ち込んでいく両者。

健二が憧れを持っていた新次の強さは何もボクシングが強いことだけではなく、自分のブレない軸や意志を持ち、誰にも依存することなく、自分で自分の人生を切り拓いている強さであったことがわかる。

新次とスパーリングをし、強くない奴は嫌いという言葉を聞き、新次と裕二の一戦を観た健二は、そんな新次よりも強くなるよう、覚悟と決意を固め、別の事務所に移行する。
堀口(ユースケサンタマリア)は裏切りと言っていたが、手紙をもらった新次は絆が強いからこその行動であったと気づいていたはずだ。

新次と健二中心に話は展開されていくが、その中に散りばめられている周りの人たちの人間模様とそれぞれの「繋がり」の重さと決断と過去への決別と前に進んでいこうとする姿勢。
それぞれをもっと深掘りしていきたいくらいに、芳子(木下あかり)、新次の母京子(木村多江)、馬場(でんでん)、健二の父健夫(モロ師岡)、宮本(高橋和也)、恵子(今野杏南)、裕二、芳子の母セツ(河井青葉)、マコト(萩原利久)、新次の先輩、石井(川口覚)の過去やその過去から生まれる後悔、そこに背きたくなりながらも向き合おうとする葛藤、立場や悩みが違うし、それこそ繋がりがテーマになっているからこそ、描かれている意味があるなーと感じた。

結局それぞれの「繋がり」の解釈の重さから、全員が一人で生きていくことになる。

最後に今作一の見応えのある新次と健二の闘い。
二人はなぜ闘うのか、闘わないといけなかったのか。
闘うことこそが不器用な彼らが繋がることの証であり、健二はそれこそが本当の強さを手に入れる瞬間であり、自分を変えることを理解していたからだ。

様々なものを乗り越えてきた二人のラストファイトは色んな人の想いと闘いを乗せているかのように激しく、痛々しく、強く、全員の心に何かを訴えかけ、人の心を動かした。
そして、自然と涙が流れて、震えた。

社会問題が深刻化していったり、生きづらくなっていく日本になったとしても、いやなったとしたら、大事なのはやはり自分の意志や軸を持ち、それを貫けるような生き方をすること、今作が伝えたかったのはこれなんじゃないかと思う。

空気感、世界観、メッセージ性、設定、展開、キャスト、どれをとっても圧巻すぎて、個人的な2017年No.1の邦画は間違いなく今作。
こんなにインパクトが強くて、染み渡る傑作は久しぶり。

あゝ、(やっぱり)荒野。
でも自分次第で希望にもなるし、絶望にもなる荒野である。