シネマライフキャリア - Cinema Life Career -

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映画『ミッドナイトスワン』感想:凪沙と一果が辿り着いた崇高な愛の境地

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最期の冬、母になりたいと思った。

 

凪沙と一果だったからこそ辿り着けた崇高で唯一無二な愛の境地。
孤独であると感じていたからこそ愛に触れたとき、その人にしか見せない表情が生まれて、それらの積み重ねによって誰もが辿り着けない2人だけの関係性が育まれていく。

どこまでも痛切かつ現実的でありながら、どこまでも美しく愛おしい。
辛くて苦しくてしんどいけど、救いと余韻が残る。
まさに匂いまでをも感じることができた傑作。

無駄に多くを台詞では語らせずに余白を視聴者で埋めていく形になっているのが映画の演出として凄くよいし、普段映画をあまり観ない人のためにも置いてけぼりにならない絶妙な丁寧さとわかりやすさで作られているのもあり、映画好きと普段あまり観ない人どちらもが、満足できる作品となってるのではないだろうか。
ここまで評価が高いのも頷ける。

誰かとでないと踏み出せない一歩がある。
その一歩の積み重ねが自分の奥底で求めている理想の未来。
それは誰かを愛することであり、誰かに愛されることでもある。

愛を諦めていた2人が邂逅し、痛めつけ合うのではなく、慰め合うのでもなく、ただ日常生活を営んでいく中で、徐々に2人だけにしかわかちあえないものができる関係が育まれていく。

それは凪沙と一果だけでなく、一歩踏み込んで仲良くなるそれ以外の関係の中でも広がっていくのもよかった。
特に一果とりんの関係性なんかは本当に素敵だった。

日常の延長線上で繋がっていく登場人物たちを一緒に追いかけていくことで、そういう人と人が織りなす当たり前のように転がっていそうな関係のかけがえなさを、余すことなく感じることができるようになっている。

さらに、その先に自分のことを差し置いて、物凄い痛みを伴いながらでも、誰かのために必死に頑張ることができることの難しさと凄さと美しさが描かれている。
それって並大抵のことではなくて、本当に難しくて色んな壁を乗り越えないといけないことだと思う。

それを言葉で語り合うことなく、見返りを求めず、それぞれがそれぞれに対して、相手のことを考えながら行動していて、こんなに素晴らしいことってそうそうない。

これを愛と言わずして、何を愛と言うんだ。
いやもしかしたら、愛すらをも超えているような気さえしてしまう二者間で築かれていく世界が本当に尊い

しかもこれがあまり作られてる感じがしなくて、ドキュメンタリーよりもドキュメンタリーっぽさを感じた。
そこにある世界で、そこにいる人たちが、実際に生きているような感覚。それを追体験している。

陽の当たらない場所とか狭い世界は、ネガティブなイメージとして捉えられることが多いであろうが、必ずしもそうではない。
それがどのような世界としてそこにあるのかが大事なのであって、逆にそこがあるからこそ生きていける人や救われる人がいるのだ。

多様性が認められてきているものの、LGBTQがまだ「理解しなければならないもの」として現実に蔓延しているのも事実。
それが世の常として、どこでも全くの違和感なく共存できるかというと、話は変わってくる。
同性愛という二者間で完結する世界の中であれば、当人同士だけの問題で済むのだが、社会で生きていくとなるとそんなに簡単なものではないんだなと。

これは『カランコエの花』を鑑賞したときにも思ったことだが、誰もが悪気があるわけではないのに、そういうことではないんだという気持ちが見え隠れするシーンがあって、それが観ていて辛くなる部分もあった。
でもそんな現実とそれゆえの苦悩もしっかりと描かれているから、より多方面に色んなことについての理解を深めることができた。

そして、凪沙が「母になりたい」と女性として生きることを本気で願い、目指しているからこその様々な葛藤が、より奥行きを与えていたように感じる。

とことん人間に向き合って映し出されているかけがえのない一つの世界。
とても大事にしていたい心に残り続ける映画に出会えました。

P.S.
本作の台詞で語らない演出には、キャストの演技の手腕で作品の出来も左右される。
その中で、新境地の役柄ながら表情で細かい感情まで表現し切る草彅剛さんはさすがすぎたのと新人でありながら成長による変化を細かく演じ切る服部樹咲さんに驚かされた!
あとは水川あさみさんの鬼気迫る演技も本当に怖かった。
音楽も全体的にこの世界観を上手に作っていて、色んな要素が全て妥協なくしっかりと繋がってると感じられた。