シネマライフキャリア - Cinema Life Career -

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映画『本気のしるし』感想:人間の奥底に眠る想定外に揺さぶられる大傑作

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ふたりなら堕ちても


超絶大傑作。2020年ベストってだけでなく、オールタイムベストにまでなりそう。
とにかく凄すぎる。圧巻。濃すぎて、深すぎて、おもしろすぎた。

好きか嫌いかとか信じるか疑うかとか、そういう二元論で語ることができない人間の奥底に眠る想定外なものに揺さぶられ、惹きつけられ、翻弄されていく232分。
常識からは考えられない行動だらけだが、物凄く魅了されて徐々に感情移入し、そこに共感までもを覚えていき、この世界から逃げられない。そしてそれが快感。
もちろん倫理的に外れていることが苛々するという次元なんか、軽々しく超えていく説得力が宿ってる。

考え得る色んな概念が覆されていって、いかに自分が物事を世間一般や常識と照らし合わせながら見ていたかを思い知らされる。
そういうものでは決して語ることのできない人間が本作には描かれていた。
すぐに性描写や喧嘩、仲違いに落とし込まない点も好印象。

日々をこなすように生きながら、誰にでも優しさを見せられ、つい期待させてしまう辻。
仕事もできるし優秀で周りからも信頼され、女性からもよく好かれる。
ただし、自らの感情はほとんど死滅しているように見えて、何を考えているのかがわからない。

そんな辻は、世間からの見え方をどうしても気にしてしまったり、でもどんな人にも深くまで関わっていくことはせずに、人間関係に見えない壁を作ってるようだ。
生きることにもやもやしている感じもする。

そこで出会ったのが無防備で、天真爛漫で、自由奔放な無意識に人を惹きつけ、放っておけない存在の象徴である浮世だった。

自らの意思次第で切ろうと思えばいつでも切れる2人の関係は、恋愛とも友情とも割り切った関係とも言えずに、それでも離れられない不思議な関係へと発展していく。

辻は他の女性とも関係を持っていて、それも当人からするとそうでないと思っていても、相手にとっては恋愛や結婚を考える関係として捉えられている。

世間一般(世論)から見る倫理観に従って取捨選択をするとしたら、絶対に辻と浮世が重なることなんてないはずだ。
でもそれが全てなんてことはない。
人は自分の望んでいるわけではない無難な道ではなく、刺激的な道に引っ張られることがあるのではないだろうか。

決して表に出ることのないそのような思いは、放っておけないというそれっぽい理由を作りながら、徐々になくては生きた心地のしない存在として拍車がかかっていく。

今まで選択から目を背けて流されながら生きてきた辻が、浮世のことになると何でも気になりすぐに行動に移していく。
そして、あらゆる人を敵に回し、地獄に堕ちることを予想できたとしても、今まで積み重ねてきた全てを投げ捨ててでも、浮世とともに生きることを選択するのだ。

そこにはもう放っておけないなんて言葉では通用しなくて、ただならぬ思い、それはまさにタイトルの通りに本気が宿っている。
簡単な言葉では片付けることができない人と人の関係、人の奥底が映し出されていく。

その上で、それでも浮世に裏切り続けられる辻。
ただし、裏切られることについては、その人の目線からそうあるべきという視点が入り、その人側の都合によって勝手に期待しているから裏切られると感じるだけに他ならない。
それは相手の知ったことではないのだ。

それでもその人と繋がり続けたいと思うか、そのための行動をし続けられるか。
それこそが愛であり、「本気のしるし」なんだなと感じた。

浮世だけでなく、実は辻も誰もに優しく接しているようで、自分の視点しか持ち合わせられていない浅はかさがあった。
その中で数ある女性に行ってきたことが、浮世からブーメランのように返ってくる。

そこから本気の矛先が逆転する。辻から浮世だったのが、浮世から辻に。
好きになる/好きであることを知ったからこそ、初めてその人に自分のしたことの申し訳なさや愚かさに気づき、その人のために自らの人生を捧げることを厭わなくなる。
こうなるともう理屈では語れない。好きだからこうしたいという意思、そして何が何でも一緒に生きるという覚悟の問題なのだ。

そこから続くラストのシークエンスは本当にたまらなかった。
前半で映し出されていた伏線が見事に意味を持ち回収されていき、逆行しながら超絶エモーショナルな愛の物語へと昇華されていく。

あのラストシーンは、自分の中で2大衝撃かつ大好きな『寝ても覚めても』や『きみの鳥はうたえる』のラストをも超えるくらいの衝撃と余韻、そして強度のあるものだった。

素晴らしいという言葉でさえも薄っぺらい。
この2人でしか到達することができない唯一無二の愛と本気の到達点に、ただただ平伏すしかない。
こんなものを見せられたら、どんな人間関係もどこか薄っぺらく見えてしまいそうだし、どんな作品の描く人間模様も物足りなく感じてしまいそう。

それくらい強固で深い人間模様が描かれていて、とにかく232分間本気で目が離せなかった。

P.S.
主演の2人に森崎ウィンさんと土村芳さん。
これ以外は考えられないくらいにハマっていて、かつ細かい部分まで演じ切られていて、本当に素晴らしすぎた。特に土村芳さん凄かった!
今後も注目していきたい。
内容的に近しい作品として『寝ても覚めても』があるが、それよりも強烈で衝撃的で説得力もあり、観終わったあとは『ハッピーアワー』みたいな感覚に近い。