シネマライフキャリア - Cinema Life Career -

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【映画】残像 〜人はそれでもなお、信念を貫けるのか〜

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人はそれでもなお、信念を貫けるのか。

この時代のことを深く知るためにも、こういう作品はこれからも観ていきたい。
アンジェイワイダ監督の遺作。
反社会的な作品を作り続けた巨匠が最後に残した作品で、答えは出ずとも彼が残したいものがぎっしりと詰まった作品のように思えた。

1945年、第二次世界大戦後のソ連ポーランド侵略から同国に全体主義が広がっていく中、芸術や表現の自由が脅かされていた。
イデオロギーなき芸術は芸術として見なされない。
芸術にまで、社会主義的リアリズムを実践させようとしていた。
そんな当局に反発する1人の芸術家が、信念を貫き、行動し続けるが、時代の難しさや圧倒的権力、組織を前にどうすることもできず、生涯を終えてしまう、そんな物語。

この時代の全体主義による閉塞感、国家や大きい組織に抗うことの難しさ、国や制度のおかしさと不完全さ、でもその中で芸術の正しさを訴え続ける1人の男ストゥシェミンスキの葛藤が、作品を通してリアルに伝わってくる。
さらに、反社会的な行動に対しての容赦のない罰と表現の自由なき場所での芸術家の無力感、いたたまれなさ。
それでも信念を貫き続けたストゥシェミンスキは、真の芸術家だった。

映像や淡々と流れる周りの時間軸との対比と時折流れてくる音楽がより一層、重苦しさを感じた。
娘の赤いコートで、なぜか「シンドラーのリスト」の赤コートの少女がふと思い浮かんだ。

表現の自由を獲得することの難しさ、そして現代にそれが権利として認められているありがたさ。
当たり前はこんな時代を経験した人がいるからこそ作られていることを今一度噛み締めることができた名作の一つ。

バッドエンドで終わってはしまったが、ブレない考えと行動、それに感化されて生徒や一部の芸術家に尊敬されるストゥシェミンスキ。
生き方のお手本というか、こんな生き方は不器用だが、かっこいい。

ストゥシェミンスキの半生を、アンジェイワイダ監督は、自分の残像として残したのではないか、と思った。