シネマライフキャリア - Cinema Life Career -

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【映画】羊の木 〜受容する先に見えるもの〜

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キャッチコピー(信じるか疑うか)と吉田大八監督にこのキャストでかなり期待して鑑賞したが、思ったよりはハマらず。
群像劇としてもヒューマン映画としても物足りない。
とはいえ、サイコにもサスペンスにも振り切ってる感じではなかった。

「怒り」みたいな濃い描写を期待していたが、「信じるか疑うか」の駆け引きや葛藤、愛するがゆえのみたいなものはそこまで表現されているように思えず、(設定が会ってからそこまで経っていないの仕方ないが)全体的に人に対しての無関心さ、理解の薄さの上にそれぞれの物語が進んでいっているように感じられた。
(でもこれはおそらく人を信じること(性善説)が前提となって話が進んでいたからかなと思ったことはのちに記載しています。)

それに今作に、6人の殺人犯が登場する意味がわからなかった。
作品の不気味さを助長するという意味ではよかったのかもしれないが、6人を尺に収めようとすることで、一人一人の心情や内なる思考の描写にスポットが当てられていなかった。
(殺人犯を減らしてもう少し上映時間を減らす、もしくは心情にスポットを当てることができていればハマった気がする。)

ですので、始まって数分でこの映画の見方をガラリと変えてみた。
そしたら「怒り」とはまた違う何かを感じることができたような気がする。

今作は、基本的に人を信じるという性善説(というよりも人の内面にまでそこまで深く入り込まず、心と心の駆け引きがないため、どちらかというと人を疑わないことを大前提)で話が進んでいっていたように思えた。
元殺人犯それぞれの過去を知るのは月末(錦戸亮)、課長のみで他の人たちは過去を知らずに港町魚深で町民と元殺人犯が一緒に暮らすことになった。

それは過去を知ることで人はその過去に囚われて人と接してしまうことになりかねないことが一番の理由であったと思う。
そう考えると、優しい人柄で人を過去行ってきたことのみで判断しようとしない月末を担当にしたのも納得がいくし、キャスティングが錦戸亮なのもかなり絶妙。

元殺人犯それぞれが少し変わって見えてしまうのは、自分は今作の中でそれぞれが元殺人犯であったことを把握していたからかもしれない。
それでも、元殺人犯だからといって拒絶することはしないだろう。

実際に、それぞれが雇っていた勤務先の人の様子を見ても、特にその人を拒絶する様子も見えなかったし、変わっているように見ている人も少ないような感じだった。

結局話が進むにつれて、それぞれが自身の過去を伝えるものの、今のその人をしっかりと見た後であったこともあり、各々がちゃんとその人のそこまでを受け入れていたのは印象的だった。

月末とあや(木村文乃)が親交があり一番仲良くなっていたのは宮腰(松田龍平)。
月末は本当に友達として、あやは恋人として彼を信じて付き合っていたし、あやも彼の過去を知っても、罪を償ったのであればと受け入れようとしていた。

宮腰は、殺人を止めることができずに、悲しい結末であったが、彼は本当はとても優しい思いやりの強い人間だったのではないだろうか。
月末があやのことを好きであれば付き合わなかったという発言、わざとあやから離れるためにとった行動、自分のことを受け入れようとしてくれる人には優しいという特徴があったように思える。

それでも、敵と判断した相手には、限度を考えず抑えきれずに、人を殺してしまう。
生き方が上手ではないんだなと、こんな人を見ると本当に悲しくなる。

更正しようと生きた太田理江子(優香)、栗本清美(市川実日子)、福元宏喜(水澤紳吾)、大野克美(田中泯)が新しい人生を歩めるようになった最後は希望が持ててよかった。
これと様々な境遇があることを描きたかったから、6人の元殺人犯をあえて描いたのかなと。

それに対して、更正を前向きにしようとしなかった(できなかった)宮腰と杉山勝志(北村一輝)が死んでしまった。
こういった部分はよくできているなと。

作品としての強いメッセージ性はそこまで感じられなかったが、更正しようとする人たちにも前向きに生きる権利をと主張するような展開とそんな人たちを前向きに受け入れようとする人たちは神からの救いの手が伸びることを主張しようとしていた感じはあった。

作品自体は、淡々と不気味な音楽、暗い風景を中心に進んでいくから、常に緊迫感があった。

この豪華俳優陣の中に、主演で錦戸亮は大丈夫かなと思ったが、錦戸亮の顔(一つ一つの細かな表情)や間を中心に想像を超えて好演。(ただこれは仕方ないが、どうしても錦戸亮の声とトーンと話し方は良くも悪くも感情が伝わらない笑)
さらに松田龍平は本当にさすがの好演で、早くも自分の中で優秀助演賞候補。
他の配役もキャストの演技もすごくよかったし、優香の新たな一面を見た感じがする。

ちょっと自分には理解しにくい部分もあったので、監督のインタビューとかを見て、もう一度映画観たらまた変わるかもしれない。