シネマライフキャリア - Cinema Life Career -

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【映画】スリービルボード 〜怒りは怒りを来す〜

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映画としての展開がおもしろく、内容としても深く、メッセージ性も感じる。
評価が高い理由がわかる。
だが、心情に対しての描写においてはやはり邦画の方が幾度にも濃い作品があるなと感じた。
それでも全体的には期待以上に満足な作品だった。

自分の娘がレイプ事件の被害者となり、他殺され亡くなったミルドレッド(フランシスマクドーマンド)は、進展しない警察の捜査に苛立ちを隠せずに、警察(特に署長)を侮辱するような3枚の看板を立てる。
それは事実でしかないため、名誉毀損で訴えられるわけもなかったが、その看板が思いもよらぬ方向に進展していく。

警察を黒人虐待をしているだけで大事な事件の真相を追うことをしていない(ちゃんと仕事をしていない)と決めつけでメディア越しに発言してしまうミルドレッド。
その裏には、彼女自身が娘が亡くなったことからの責任から逃れたい一身やそれを別の形に転化し、娘のために執念深く追うことで、少しでも自分を許そうと楽になろうとしている行動にも見えた。

看板が出ることで敵対関係のようになってしまうミルドレッドと警察官。
警察官だけであればよかったのだが、看板を出したことによる被害は息子にも派生したり、他にも敵を作ってしまった状態が起きたが、彼女自身の執念から看板を降ろすことを決してしない。

敵対関係ができることで、人はその人の表面だけを見てその人を悪とみなすようになってしまう。
ミルドレッドは、警察官に対して、それぞれの人の心情や考えていること、内面の部分までしっかりと見ることをせず、発言や犯人が捕まっていないという事実だけで、その人を敵とみなし、より攻撃をしてしまう。
敵対された相手には、対抗しようとしてしまうのが人間の性でもあり、特に警察官のディクソン(サムロックウェル)は、すぐにカッとなり、その敵対から来るミルドレッドの行動に対抗しようとする。

事件の真相、犯人を見つけてもらうことが目的のはずのミルドレッドは、その目的から外れ、堂々巡りになり、怒りが次なる怒りを生む負の連鎖が回ってしまっていた。

怒りは怒りを来す。
怒りは沸点を超えると執念に変わり、とてつもない悪循環に陥る。
怒りとは何とも邪魔な感情だなと嘆きたくなった。

そうこうしているうちにさらなる事件が起こる。
心優しかった署長ウィロビー(ウディハレルソン)が、病気のこともあり、銃で自殺してしまう。
その自殺で残した遺書を通して、ミルドレッドは初めて署長の想いを知ることになり、自分が本質を観ずにしていた行動に少し後悔をしたように見えた。

それでも、その遺書に残されていた看板の契約費用を署長が持ったことに救われた。
署長は犯人を捕まえられなかった責任を自分でしっかりと取って死んでいったのである。

表面しか見ずに自分のことしか考えずに起こしたそれぞれの行動が、他にも様々な悲劇を生んでいき、他者をも悪い方向に巻き込んでいってしまうが、それは自分にも返ってくる。
それが映画としてうまく表現されていて作品の完成度が高いと感じた。

基本的に人を下に見るような行動や言動も敵を作ってしまうだけである。
最後まで犯人は見つからず、結局犯人探しは自分を守るためのこと、そんなことをしても娘は戻ってくることでもないことを悟り、感情においては無になったような状態をミルドレッドとディクソンがお互い確認するように映画が終わりを迎える。

レビューを書く中で、ついつい文中に「〜してしまう」が多くなった。
これは、こんな結果を誰も望んでいなかっただろうに、それぞれがすれ違う中でこうなってしまったのだろうということが、あまりにも多かったから。

人は元来人に優しくできる、人のために手を差し伸べられる、心温かい一面を持っているものであるが、冷静を保てずに自分を守ろうとするときに、その人の温かさに目を向けられなくなる。
そして、そんな表面だけを見て相手をこんな人であると決めつけることからとる行動には予想だにしない悲劇を生むことがある。
だからもっと人の本質に目を向けていこうというメッセージ性を感じました。

一見とてつもなく重くなるような映画だと思ったが、所々に人の優しさや温かさがちゃんと垣間見えたから、そこまで重くは感じなかった。
勝手に敵対視するから敵になるだけで、意外と味方はいるんだと、だから対話は大切である。

全体的に非常に奥深くバランスもとれているすごい映画だった。
こういう作品が国境を越えて評価されているのがとても嬉しい。

P.S.
マンチェスターバイザシーと比較されてることが多いけど、個人的には全く別物の映画やと思う。