シネマライフキャリア - Cinema Life Career -

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【映画】リバーズ・エッジ 〜平坦な戦場で僕らが生き延びること〜

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「GO」の行定監督×二階堂ふみ主演ということで、公開前からとても楽しみにしていた今作。

高校生という社会の閉じられた狭い世界の中で、飄々と、自分を隠して綺麗なところだけ見て日々を過ごす。
なんとなく他の人と仲良く打ち込めることがあって、それに打ち込んで深く考えることをせずに、日々を過ごす。
そんな周りから見た普通の高校生の像を一刀両断するかのような高校生とは思えないほどの、様々な思考の数々と表には決して見えない裏のそれぞれの姿。

そこには、生きることの実感を持ちたいが、どのようにして持てば良いのかわからずに、日々を鬱々と、それでもその状態を脱したいと思いながら、他者と関わったり何かにすがったりしていく高校生がしっかりと描かれていた。

歪んだ青春とでも普通でない高校生活とでも言ってしまいそうになるが、彼ら彼女らにとっては、これが普通の青春であり、高校生活であるような感覚なのだろうか。
むしろそんな簡単な言葉では片付けられないような気がした。

自分の感情の起伏がわからない若草ハルナ(二階堂ふみ)は、荒っぽいがイケメンの観音崎(上杉柊平)と付き合っていたが、観音崎がいじめていた山田一郎(吉沢亮)を助けたことにより、若草と山田が深く関わっていくことに。

若草から山田へ好きという感情があるようにも見えないが、何か似た者同士であるのか、それとも若草からの山田への興味なのか、切っても切れないような関係になっていく。
そんな山田は若草に今まで誰にも話していない秘密を話す。
それは、立ち入り禁止の河原で死体を宝物にしていることである。
いじめられていた山田は、表には出さないがいじめてくるやつらとそれを見て嘲笑ってるやつらを恨んでいた。
だが、そこに対してどうすることもできない山田は、その死体を見ることで日々を過ごす勇気をもらっていたのである。

さらに宝物にしているという共通点で、山田は死体をモデルの吉川こずえ(SUMIRE)と共有しており、それがきっかけで、若草とこずえも出会うことに。
3人は、恋愛関係ではないような、でも繋がっている。
そんな不思議な関係になっていく。

若草と付き合っている観音崎と山田と付き合っている田島カンナ(森川葵)は、若草と山田の関係に疑問を持ち始めていた。
観音崎は自分が若草に愛されていないと感じるものの、それでもセックスをしたい衝動と欲望を小山ルミ(土井志央梨)で発散することに、観音寺と小山は薬と身体の関係に陥っていく。
田島は山田への過剰な愛から若草との関係を勘違いし、嫉妬を暴発させるかのように、山田への執着と若草への攻撃を募らせるようになる。

観音崎も田島も相手を愛しているからこそ、相手からの愛を感じられずに走ってしまう行動が何ともだった。
大きさは違えど(田島の方が大きく見えた)、相手からの愛を感じられなくなっても、愛することをやめることができない二人。

小山は、観音崎のことを好きなように見えたが、完全に自分は都合の良いように使われていることをよく思っておらずに、ついにそれを爆発させてしまうシーンもあった。

田島は過剰な愛が度を過ぎて、若草の家を燃やそうと火をつけようとし、自分も燃えてしまい、死んでしまう。

自分の感情が異常な形となってしまう観音崎、田島、小山とあまりにも感情とは無縁で日々を過ごしているように感情が表に出ない若草と山田と吉川。
対比されることで、人間の様々な側面が描写されている。

最後に、若草が引っ越すときに、田島の死が自身の感情を揺れ動かしたような表現をした言葉を放ったがそこが印象的で、感情があまりなかった彼女が、喜んだり悲しんだり色んな感情を持ちながら日々を過ごすことが生きる実感に繋がるとしめていった。

今作が表現したかったこととは、人間の感情表現の多様性と人間の表裏、生きる実感は様々な感情と向き合いながら生きていくことで生まれることであることだと感じた。

そこに正解不正解なんてものを求めようとするのではなく、焦燥の中で、こんな物語のようになっていくことがある、もしくはもう心の中では同じようになってしまっているということを伝えたかったのではなかろうか。

設定や物語はやや非現実的でありながらではあるが、人間の描き方が妙に現実的で痛々しくて目を伏せたくなるシーンもあり、少しだけ気分が悪くなった。
それでもこの映画の「表現の形」は、観ておいてよかったと思えた。

そして、人には人に話したくない秘密を持っている。
どれだけ強がっていても話したくないことを抱えているものであるし、極限状態になったときに、弱さが露わになるものである。

心を許す人だから話すこともあれば、心を許すような人でないからこそ話すこともある。
仲が良いからこそ話せることもあれば、程よい距離感だからこそ話せることもある。

焦燥、欲望、嫉妬、感情、過剰、愛、無情、浮気、秘密、闇、同性愛・・・
こんなに様々な「人間」が描かれている作品はそんなに多くない。
今作の物語を青春や高校生活と簡単に名付けることは自分にはできない。

「平坦な戦場で僕らが生き延びること」
平坦な戦場とは、一見何も起きていないように思える表の世界の裏に、いくつもの感情や葛藤などの人間の醜い部分、自分たちの知らない闇があって、自分たちはそんな世界の中で、(だからこそ)生き延びるんだというメッセージであるように思えた。

P.S.
二階堂ふみを始め、キャスト陣が素晴らしすぎました。
この世界観を演じられるのは、本当に流石の一言でした。