シネマライフキャリア - Cinema Life Career -

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【映画】永い言い訳 〜誤ちを受け入れながら生きていく〜

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永い言い訳

 

妻が死んだ。

これっぽっちも泣けなかった。

そこから愛しはじめた。

 

映画にハマるきっかけを作ってくれた2016年邦画作品の一つ。

このタイミングで改めて鑑賞。

 

自己愛が強く、自分が他人にどう思われるかを重要視し、さらに自らの欲求の発散のために生き、本当の意味で人を愛し向き合うことを今までしてこなかった男(本木雅弘)と一途に愛し続け向き合ってきたがゆえに、過去を引きずり忘れられず、なかなか前に進めずに今生きる子どもたちと真正面から向き合い切れない男(竹原ピストル)を中心に織り成される物語。

 

共通項は不慮のバス転倒事故で妻を亡くしたこと。

それ以外は境遇も環境も性格も全然違う。

そんな2人が繋がることで、人生を生きる上での幅と深みに対して相乗効果が生まれる。

 

妻とその妻の死に向き合えない人と向き合いすぎる人。

自分以外の誰かに向き合えない人と向き合いすぎる人。

どちらが良い悪いではなく、その前提が全然違い、真反対だからこそ、お互いに補完し合えるものがあって、時に衝突して、それを繰り返していくことで、徐々にどちらもの大切さをお互いにわかり合えて、人と人の繋がりの深みと温かみに昇華されていく。そんな展開が素敵。

 

人間は不完全であり、一人一人違う。

ある者は表では輝かしい実績を残す完璧そうに見える著名人であったとしても、裏ではイメージと真反対な倫理的に間違っている一面を持っていることもある。

ある分野で圧倒的に実績を残していても、それ以外は無知で全く知らないこともあり、人として大切なことさえ知らずに成長している人もいる。

それとは逆に、凄いと言われるような実績はわかりやすく残しているわけではないが、人として本当に素晴らしい人もいて。

 

人間は元々、遺伝による差は多かれ少なかれあるものの、何もかもが0の状態から生まれてきた。

成長する過程におけるその環境や触れるものによって、できること、できないこと、知ってること、知らないこと、長けていること、欠けていることが出てくる。

そんな中でどんな人が素晴らしいのか、凄いのか、なんてそもそもわからないし、大体はある側面から見たその人でしかない状態で、良くも悪くも世間から見られる。

 

そんな中で、どう生きていくのか、どう生きていきたいのか、人生とはいかなる状態が充実してると言えるのか、そんなことを半ば強引に問われ、考えさせられ、向き合わざるを得ない作品で、あらゆるシーンが胸に突き刺さっても来るし、でも徐々にそれが深いところで広がっていく感覚もある。

 

本当の意味で人を愛することは想像を絶するほど難しいことであるように思う。

やっぱり人は結局自分が好きだし、自分がどう思われるか、を気にすることは不変であり、普遍でもあるから。

さらに、無駄なプライドや見栄も捨て切れる人はそうもいない。

誰かのために生きることが本気で自分の喜びや楽しみになるかどうか。

自分以外の誰かに向き合うことにどこまで本気になれるか、そうしたいと思えるか。

お互いにそれができる関係になれればよいが、そう簡単なものじゃない。


それを前提に、それでもどれだけ他者のことをわかろうとしても、経験すること、知ってること、前提が違うからこそ限界はある。

それも踏まえてそこに対して絶対にしてはいけないこと、踏み込んではいけないことがある。

自分を大切に思ってくれる人は、見捨ててもみくびっても貶してもいけない。


誰かを守りたい、誰かと向き合いたいと本気で思うことに必要なものはないが、いざそれを実現しようとするとやはりそれは色んなものが必要になる。

でもそれを一人で何とかしようと必ずしも抱え込む必要はない。


子供と向き合っていく中で、利害関係なく人を愛すること、誰かのために生きることの尊さを知る衣笠夫。

今までの人生の中での自らの誤ちを受け止めて、逃げずに向き合うことを決める。

やり直すことはできないからこそ、せめて子どもたちには同じ誤ちを犯さないように、自分の弱さと誤ちを伝えて、自らは亡くなった妻と向き合う決意をする。

子供の存在は本当に人を大きくし、大切なことに気づかせてくれるんだなと思った。


人生は他者だ、という最後の言葉。

人生とは決して自分だけでなく他者との関わりにおいて創られていくということ。

他者との関わりによって人生に広がりが生まれて、豊かになっていくから、「人生は他者あっての自分」であることを表現した今作で一番伝えたかった言葉だと感じた。

これは2回目を鑑賞することで捉え方がより深まった感じがする。


利害関係なく繋がりたい、関わりたいと思える人がいることは尊い

今自分には誰かがいなくなることで泣ける人はいるだろうか、と問うてみるともどかしい。


西川美和監督作品はやっぱり味わい深くて、理性的であり情緒的。

痛々しさと深くじんわり広がっていく余韻が物凄く残る傑作。


P.S.

あらゆることを多方面から考えさせられ、問われる作品なので、思考が拡散してしまい、誰かと話して整理したくなる。

そして、衣笠夫婦の出会いからの物語をもっと見てみたくなった。


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