シネマライフキャリア - Cinema Life Career -

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【映画】よこがお 〜よこがおが物語るそれぞれの心情〜

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よこがお

ある女のささやかな復讐。

ちゃっかり下半期で最も楽しみにしていた作品。

積み上げてきたものから作った幸せな生活を、想定外に崩されていってしまう女性。
その女性のそこに至るまでの背景や心情を生々しく描いていくことで、人間のえぐみと社会の不条理さをじわじわと炙り出していく。

 

フィクションなのに全然フィクションだと感じないリアルな生々しさと生きていく上ではだかる不を炙り出していく現実的かつ奇怪な内容。
深田晃司監督の更なる真骨頂が詰まっている作品と言えよう。

 

結局日本社会の中で生きていくには、自らの視点から見た確実なる潔白さや性格、事実から見た姿(いわゆる主観)だけではなく、他者にどう見られどう思われるか(いわゆる客観)が前提とならざるを得ないことがある。


また、それを形作るのは真実かどうかが確実ではないことを、大衆に商品として晒していくものたちであることがある。
それらの標的になってしまうことの救いようのなさがひしひしと伝わってくる。

 

数の論理と社会から見た立ち位置として、テレビを通した第三者の発言とマスコミの捉え方から放たれる報道は強く、それが事実でなかったとしても、重みの形が違っても、一つのストーリーとして話が全て完結していなかったとしても、各人の捉えられ方に片付けられ、真実は歪められて受け止められていく。

 

それにより味方であると思っていた人たちが急に離れたり、裏切られたり、大切な人に迷惑をかけたくない当事者の思いも含めて自分から離れざるを得なかったりすることで、築き上げてきたもの全てを失い、さらに追い込まれていく構図が勝手に広がっていき、取り返しがつかなくなる。

 

報じる側からしてみたらたくさんの中の一つの事件として、徐々に忘れ去られるであろうことでも、それを受ける側は(それが誤報だとしても)全てを失い、一生そのたった一つに振り回されながら生きていかざるを得なくなる。
発信する側はその意識をもっと持つべきだと改めて考えさせられる。

 

だから誰かを罵倒するようなニュースや発言に、確実な真実を全て知らないままに、闇雲に乗っかることは本当に危ない。
それが真実と全く違う形でも一人の人生が完全に壊れてしまうことがあるから。

 

無実の加害者にさせられ、築き上げてきた今までのものを崩され、人生を壊された当事者(本作でいうと市子)は、それを我慢して背負って生きるか、生きる意味を持てずに復讐に走るか、もしくは命を自ら落とす決断をしてしまうこともあるのである。
これは程度の大きさにもよるが、本当に気をつけるべきこと。

 

本作では、そのような現実的な社会の不条理を露わにしつつ、人間の複雑性にまでしっかりと切り込んで、作品に更なる意味づけをしているのがさらに圧巻である。

特別な感情を抱いているはずの人に対して、本意とは違う言葉を投げかけてしまったり、するはずじゃなかった取り返しのつかないことをしてしまったり。
それにより様々な複雑性を持った人間が共存するときに、性善説で生きることの難しさを説いているような感じがする。

 

さらに、それら含めて場面場面のあらゆる要素がキャストそれぞれの「よこがお」から物語られている。
人が正面に相対して人と接するときには決して見せない顔が「よこがお」にはある。
よこがおにこそ、その人の今が溢れ出ている。
よこがおでそれぞれのその場でのメッセージが物凄く伝わってくるし、そこには喜怒哀楽の感情だけでなく、その人が何を考えているのかまでもがイメージできてしまう。

 

何の問題も異常もなく生きていける方がもしかしたら普通じゃないかもしれない。
本作のようになることは、あくまで「かもしれない」程度ではあるが、可能性は0ではなく、誰かにとってはこれが日常になってしまっていることがある。

そう考えると怖いし、平和ボケで油断はしていられない。
そういうのを求めてるのもまた人間であることが伝わってくるのも本作の怖さ。
そして無駄に語らないことで生まれる余韻とどんでん返しがない展開でも丁寧に物語を作り込み描いていくことで出てくるとてつもないおもしろみと深みとやばみ。
クオリティが物凄く高い。

 

色々なやばさが共存してる衝撃作。
色んな角度からじわじわと異常を炙り出されてくるその内容は鳥肌モノです。

よこがおは、不気味で、本心で、人間らしく美しい。

 

P.S.
淵に立つが好みの方は間違いなくハマるかなと。
筒井真理子の歳を重ねたからこそ生まれる奥ゆかしさと色気と美しさ、そしてミステリアスな雰囲気が凄く演技が天才的。
彼女以外にこの役はあり得ないでしょうね。
そこに安定の市川実日子池松壮亮
三大ミステリアス俳優の共存。深みがやばい。
吹越満がまさかの超まともですもんね。

 

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