シネマライフキャリア - Cinema Life Career -

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【映画】アルキメデスの大戦 〜もしも軍人嫌いな天才数学者が当時の海軍に入ったら〜

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アルキメデスの大戦

これは、数学で戦争を止めようとした男の物語。

よかった!
架空人物である天才数学者が主体となり余すことない緊迫感から来る飽きない展開を保ち続けるおもしろさを軸としたエンタメ性を持ちつつ、天才数学者を架空人物として入れることにより、わかりやすく当時の実態と異常性を現代における問題のアナロジーとして説明的に露わにしていき、痛烈なメッセージを残していく物凄い作品であった。

 

フィクションではあるが、出てくる登場人物は当時の海軍を司る人たちであることから、時代背景や政治の実態については、当時に近しい内容になっているのがわかる。
ただし、主人公である櫂直は実在していなかった架空の人物である。

これからの戦争は戦艦ではなく、航空機が主体になり進められていくから巨大戦艦は必要なくなるという考えを持つ山本五十六海軍少将は、平山忠道造船中将が提案する無駄に大きい巨大戦艦を建造する計画案でなく、対航空機戦闘に備えた航空母艦(空母)を建造する藤岡喜男造船少将の計画案に賛同する。

平山忠道側の出す明らかに安い予算案に関して不信感を持った山本五十六は、天才数学者である櫂直を少佐に抜擢し、巨大戦艦の正しい見積りを出すように依頼する。

もしも天才数学者が当時の海軍に入り、問題点を暴こうとし影響を及ぼそうとすれば。
もしも戦争や軍人が大嫌いな頑固で一直線な人間が海軍に入り影響を及ぼすとすれば。

 

櫂直が見積りを出すに至る数式(結果)に関しては作品の中ではあくまで副次的なポイントであり、その見積りを出すに至るまでの過程で明らかになっていく財閥と裏で軍部が繋がっている事実や調査において必要なデータ、資料を隠し足止めする悪しき根回しによる隠蔽、問題点が暴かれたにも関わらず結局作られてしまった怪物戦艦大和から、当時の日本の実態が露わになっていき、その異常性を物語っている。

結局アメリカとの戦争を前提として考えられていたそれぞれの計画、財閥と軍部の繋がりにより不正に税金が使われている事実、軍人が大嫌いで戦争を止めるためにあれだけ奮闘していたのにも関わらず、最後に染まっていき戦艦大和ができてしまう結末。

 

美しさと正しさは、それがとてつもなく大きな決断であったとしても、全く別方向を向くことがある。
正しくはないが、その並外れた美しさに強烈に魅了されたときに、何かしらの理由をかこつけてその美しさを掴みとろうとする。

その姿を反面教師として映し出していく各人の描写とそれを裏づける物語性、そしてそこから生まれる類い稀ない反戦たるメッセージ性を強く感じる今までにはなかった類いの戦争映画であった。

 

美しさに囚われていくという意味では、比較するとさすがにその濃度に差はあるものの、『風立ちぬ』に近いものを感じた。

それらに加えて保守派(固執した考え方)と革新派(新しい考え方)の対立構造や対比を軍人対軍人だけでなく、軍人以外対軍人で描いているのも本作の特徴である。
そして、軍人の中の軍人の象徴であった田中正二郎少尉が、確かに櫂直に感化されていく構図もしっかり描かれていて、そこは本作における救いでもあるように感じた。

 

第二次世界大戦から約1世紀が経とうとするのにも関わらず、まだこれだけ戦争を題材にした作品が出てくるのには、その悲惨さによるメッセージ性だけでなく、それらが起こる過程や戦時中における思考言動行動に、現代にも通ずる問題のアナロジーが様々な要素として効いており、現代に対しても考えるべきメッセージ足りえる要素がたくさんあるからなんだと思う。

その大半は反面教師たる要素なのは言うまでもないが、見習うべきものとして描かれるものや何か共感を引き出す要素も入り込んできているものもある。

 

最近の戦争を題材にした作品は特に、悲惨さだけに着目するのではない本当の意味で必要である本質的な部分を直視して、振り返って考える要素をしっかりと盛り込んでいる作品が増えてきたように感じて、何か物凄く前進しているように感じる。

 

P.S.
キャストは全員物凄くよかったのは言うまでもないが、菅田将暉柄本佑の完全に対比されたキャラのタッグ、せめぎ合い、真逆なタイプが徐々にシンクロしていくことで生まれる相乗効果を見事に違和感なく形にする演技と偶像的お嬢さんとしての浜辺美波、当時の保守派をまんま表したような人物像として空気を一変する雰囲気を持つ田中泯がキャスティングと演技含めて特にハマっていてよかったです。
改めて菅田将暉の底知れぬ憑依の凄さを感じ取れる作品で、彼の演技を見るだけでも価値と意味のある作品だと思います。
同い年とか末恐ろしすぎる。信じられない。

 

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