シネマライフキャリア - Cinema Life Career -

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【映画】凪待ち 〜極限に闇堕ちした中で、なぜ彼は生き続けられたのか〜

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凪待ち

誰が殺したのか?なぜ殺したのか?

まずキャッチコピーは明らかにミスリードなので、そこには引きずられずに鑑賞した方がよいです。

 

毎日をふらふらと過ごし、お酒とギャンブルに溺れている典型的なダメ男と言われざるを得ない郁男(香取慎吾)が、再起をかけてパートナーの亜弓(西田尚美)とその娘美波(恒松祐里)と亜弓の地元である石巻に引っ越すことになり、平穏な生活を送ることができるようになってきていたかに見えたが、それからあることが起こり、それによりさらに郁男が堕ちていき、様々なとんでもないことが起こっていく。というよりも起こしていく、堕ちていくに近いか。

 

人はここまで堕ちていくのか。
本当にここまでどうしようもなくなっていくのか。
さすがにここで変わるんじゃないか、本当の意味で再起できるんじゃないか、と途中から希望を少しながら、もはや願いながら観ていたけど、行動としてそれが変わることはなくどんどん堕ちていく。

 

見られるのは気持ちの変化ではあるが、その気持ちをどう行動に落とし込んでいくか、がわからずに、そこに向き合う余裕もない状態だと、悪い方向にここまでストイックになってしまうんだろうか。

 

どうしても疑問になってしまうのは、これはノンフィクションではなく、オリジナル作品であり、その上で自分の想像を超える人物像がそこに広がっているから、どうしても断定を使うことができないのである。

 

一つのことにとことんのめり込めるストイックさは、誰にとってもプラスになることに注がれるとよいが、その道を間違えるととんでもないことになっていく怖さもある。
特にギャンブルは本当に怖い…郁男みたいな人が現実に本当にいるとしたらギャンブル依存症は本当に病気なんだなと思った。

 

おそらく郁男が一人で生きていくことは無理だっただろう。
一人だったら、間違いなくもっと踏み外していたか、どこかで亡くなっていたか、もっと壊れていたか。
何にせよ取り返しのつかないことになっていたのが目に見える。
逆にその末路を表している描写も比較としてしっかり出されている。

 

大切な人の存在が人を少しずつでも変えていくし救いもする。
とてつもなくダメな人間でも、周りに救われることで、何とか人らしく生きることができる。
逆に周りから見たらダメな人間でも、その人に救われる人も、その人だからこそ寄り添える人も、その人じゃなきゃ助けられない人もいる。
暴発することもあるが救われることもあるのが、人と関わりながら生きるということ。

 

本当にどうしようもなくなったとき、0よりもむしろマイナスでしか自分を捉えようのない救いのない状態になったとき、それでも味方でいてくれる人がいることは、とてつもなく救いになること、だからこそ最悪な状態になることを思いとどまることができるであろうことがわかる。

 

展開には裏切られ続けるが、だからこそより救いようのなさを感じられるし、それこそ極限状態とそこからの再生、そしてそれはどのような形でなされるのか、をしっかりと感じ取ることができる。
人の温かさをとことん裏切り、人の冷酷さにとことん堕とされていく。
こんなどん底を味わうことがあろうか。

 

白石和彌監督は事実をもとに描くドキュメンタリーと完全にオリジナルで創る作風が全然違う。
ドキュメンタリーはあくまで事実に忠実に、メッセージ性は押し殺して視聴者に委ねていくスタンスで、オリジナルはメッセージ性がびしびしと伝わってくる。
どちらも大切で必要。共通しているのは、主人公がとことんにまで闇堕ちしていく(極端にまで堕ちていく)こと。

それにより見えてくる人間の根源やその先がある。これぞ極限のヒューマンドラマ!

人を描くことに妥協をしないその姿勢が、今作でも物凄く伝わってきた。
だからこそ理解し切れない。
自分にとっては、別世界を生きる者たちであることはわかる。

そこに目を見張るものがある。そこにしか見えない世界と出せないメッセージ。

相変わらず物凄く揺さ振られ、物凄く余韻が残る映画でした。

P.S.
主演に香取慎吾を起用したのに驚いたが、彼の演技が本当に凄かった。

実は「新選組!」や「家族ノカタチ」でその演技力にもっと俳優として活躍して欲しいと思っていたので、個人的に凄く嬉しかったけど、ここまでの凄さとは思っていなかった。
間違いなく彼のターニングポイントになる作品にもなるのではないだろうか。
それくらいのとてつもないリアリティがあった!

それに恒松祐里の魅力とリリーフランキー音尾琢真の安定感。
安定感のある役者を脇に、主役の新しい魅力を引き出し続けるのが白石和彌監督。
山田孝之綾野剛蒼井優松坂桃李門脇麦斎藤工、そして今作の香取慎吾
全員今までとは違う何かが引き出されていた感じした。

 

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