シネマライフキャリア - Cinema Life Career -

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【映画】閉鎖病棟 -それぞれの朝- 〜何かしらの事情を抱えた人にとっての楽園〜

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閉鎖病棟 -それぞれの朝-

その優しさを、あなたは咎めますか?

重たくて苦しかった。
何も悪いことをしてなくても、ただ健全に生きることができているだけで、後ろめたさや申し訳なさを感じてしまうほどにきつかった。

何かしらの事情を抱えていない人が存在しない閉鎖病棟
誰もが何かしらの事情を抱えて、そこ以外では生きることが難しい。
閉鎖された空間の中にしか居場所を見つけることができない人たちにとって閉鎖病棟は楽園である。

でもそんな楽園の中でも救いようのないことは起こってしまうことがある。
どんな世界にも弱者は存在して、自分だけではコントロールすることができない第三者からの容赦ない理不尽を受けることもある。

それでも人は生きていく。
生きていくしかない。
何のために生きているのかがわからなくても。

生きていたら何か希望があるかもしれない。
何かを見つけられるかもしれない。
人生が好転するかもしれない。
少なくとも今よりはマシな人生を送ることができるかもしれない。

由紀(小松菜奈)を見ているのが本当に辛かったけど、彼女の強さに物凄く感化されるものもあった。
どうしても映画の中の世界なので、現実世界とリンクさせるのは難しいかもしれないけど、生きることに対して後ろ向きになってしまっている人には、ぜひ由紀の姿を目に焼き付けて欲しいと思った。

自分の味方がいない、理解してくれる人がいないときに、同じような境遇の人たちで居場所を作っていくことによって、それだけで楽園になりそこで出会う人たちと生活を共にすることで、何でも相談ができる家族のような関係になっていける。
そしてそれが生きる希望になる。

そんな世界がこの映画には広がっている。
着飾ることもしなくていい。
ありのままの自分を出して関わり合える環境があることが、どれだけ尊いことなのかがわかる。
だからこそやっと掴んだそんな環境を理不尽に壊す人は許すことができない。

そこであの選択をとった秀丸笑福亭鶴瓶)には例え何があってもその選択が許されるわけがないが、一方的に頭ごなしに責めることもやっぱりできない。
そこに言葉にはし尽くすことができない人としての正しい言行とは何かを突きつけられ、様々な側面から考えさせられる。
でも簡単に答えは出すことができない。

答えを出すことができない理由は色々あるが、その一つには(話を秀丸の行った行為についての是非を問う形に落とし込むところに主眼を当てるとしたら、)重宗(渋川清彦)の背景の描写がどうしても足りない(弱い)ことが挙げられる。
ただただ暴力的な人という描写は何とも浅はかで、もっと深く描くべきものがあったはず。
そこが描かれないと秀丸のあの行動の是非を、第三者から同じ目線で考えることができない。

だから本作は、どんな人にも居場所があって希望を持ちながら少しでも前向きに生きることができる可能性を噛み締める作品として捉える方がよいのではないかなと個人的には思った。

どんな人でも誰かにとっての希望や救いになることがあって、それが生きている意味に繋がることがある。
だからそうやって関わり合っていける人や場所との出会いを、探し続けることこそが本当に大事だと感じた。
もちろんその数を増やすことも大事。

それぞれが影響を与えることができる範囲は限られている。
でもそれぞれがそれぞれの範囲で関わり合って生きていけたらそれだけでも十分。
そんなことを思うことができた。

ただ、そこを主眼に考えるとしても、それならもっと彼ら彼女らの絆に焦点を当てて描いて欲しかったし、それを強固にした軸でもっとわかりやすく強い救いや希望が欲しかった感はどうしてもあった。

限られた時間の中で、あらゆるものを並列して表そうとしたがゆえに、一つ一つの重要でセンシティブなテーマとメッセージを表現する背景の描写が物足りなくて、そこがやや残念な部分としてはあったかなと思う。
題材が題材なだけに、どうしても丁寧に描いて欲しかったけど、浅はかになっている部分があってそこが気になった。

でも全体的には考えさせられるものが比較的多い作品なので、それぞれの立場に立ちながら自分の解釈を入れて鑑賞していくことをおすすめします。

P.S.
そもそもここまでの重みを感じたのは、キャストそれぞれの演技が物凄くリアルだったから。
特に小松菜奈の演技が凄かった。
うまく言葉にはできないけど、彼女にしか出せないものって本当にある気がする。上手い下手というよりもただただリアル。
もちろん笑福亭鶴瓶綾野剛、それ以外のキャストもよかった。
笑福亭鶴瓶の細かい所作や表情が本当に繊細で、これも彼にしか作れないものなんじゃないかと。
綾野剛は楽園と役柄が似ているがなり切れてるのがやっぱり凄い!
それでも、生きていくというタイトルがハマる作品でもあった。