シネマライフキャリア - Cinema Life Career -

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映画『ひとよ』感想:三者三様の考えがぶつかり合った先に…

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壊れた家族は、つながれますか。

虐待が横行していた父を殺した母に対しての三兄妹からのそれぞれの見方、および主観(よく知っている人たちの見方)と客観(全く知らない他人の見方)を程よいバランスで交えながら描いている。
だからこそ一見非現実的な世界に現実味が増し、様々な感情を色んな方面から自分事として享受できるようになっている。
それらに加えて、白石監督作品の象徴ともなってきているバイオレンスも所々に入ってきてる。
重たいけど物凄く堅実で誠実な白石和彌監督らしい映画だなと感じた。

母が父を殺したことに対しての善悪を、様々な方向から考えさせられる。
それは三兄妹や彼ら彼女らを取り巻く環境にいる人たちの考え方や見え方、また似て非なる別の家族を並行で描いているからこそ実現できる思考の幅の広がりである。

兄妹は3名いる必要があるし、それ以外の人や家族たちを描く意味がちゃんとあった。
映画の全てを享受した上で、母の行動は善とも悪ともとることができるが、それらはあくまでその人たちの立場や状況によって決められるということがわかってくる。

殺人に至った理由や思いに正義がありそれを知ったとしても、後先を考えずに行った行動は決して許されるべきものではないという考え。
何がどうあれ家族という関係の上では何でも許し合うことが前提であるという考え。
自分たちを守るために父を殺した母は許す許さないではなく、むしろ感謝するべきであるという考え。
そのどれもに理解を示せてしまうけど、そのどれもに反論の余地はあるようにお互いがぶつかり合っていく三兄妹が観ていてもどかしかった。

それでもぶつかり合っていくことで揺らいでいく心や感情がまた、お互いに同じことを経験した上でぶつかり合ったからこそ生まれるそれで、ラストに向けて家族が繋がっていくように行動や態度が変わっていく。

そこに至るまでが本作の最大の見どころであると思うが、それだけに落とし込まないのがまた凄い。

稲村家だけでなく、それ以外の人たちとの関わりやそれ以外の人たちの家族をも比較として描くことで、色んな家族の主観的に見た善と客観的に見た悪が入り交じり、より多様な人間味を見せられ、より思考が広げられ、徐々に整理されていく。

自分が正しいと思って行ったことやこうするしかないと思って誰かのために行ったことが、それ以外の人からそのままそうと受け取られないのが主観と客観の違いであり、それが現実でもある。

主観と客観をちゃんとお互いで認識合わせをしないと、ただただズレてお互いの溝は深まっていくばかりだ。
痛みを伴うとしても、絶対的に大事なことはしっかり向き合って、お互いで話し合ってどうするかを決めていかないと前に進めないし、本当の繋がりは生まれない。

ただそれができたとしたら繋がることがなかった人たちが繋がる可能性も十分にあるという希望がこの映画には広がっていた。
起こることは自分にとって特別であればいいという救いとともに。

家族が当たり前のようにあると家族の繋がりがどうとか、そういうこと自体も考えることは正直あまりない。
繋がりそれ自体はこのように何かが起こり、お互いが持論をぶつけ合って再度自分を見直し合うことで強固になっていく。

家族だからこそ生まれてくる葛藤や悩みがちゃんと描かれており、ぶつかり合った上でその先に確かなる答えと希望(救い)を与えていく素晴らしい映画でした。

P.S.
やさぐれた佐藤健、吃音で様々な葛藤に揺れる鈴木亮平、気が強く荒々しいけど人たらしで優しい心を持っている松岡茉優
キャストの名演技が最高でした。
松岡茉優万引き家族の役と似て非なる役柄で、これまた改めて凄さを感じた。
蜜蜂と遠雷と様変わりすぎてる。
他脇を固めるキャスト陣ももちろんよかったけど、あそこで大悟はさすがに笑いそうなった。笑
緊迫なシーンでなかなかに気が抜けた。笑
何で大悟がキャスティングされたんやろか。