シネマライフキャリア - Cinema Life Career -

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映画『佐々木、イン、マイマイン』感想:青春の全てを体現する佐々木

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佐々木、青春に似た男。


試写にて鑑賞させていただきました。

青春の代名詞みたいな映画。
あの頃に想いを馳せながら、今を生きる人たちの背中を押してくれる傑作。
ちょうど世代的にもどストライクにハマった。

佐々木という青春の表裏を体現しているような男。
表では何も考えていないかのようにはっちゃけ周りを明るくしていっては、裏では父が帰ってこない現在の境遇に思い悩む姿を見せる。
単純に見える外面とそのうちに複雑さを秘める内面と。

何もかもが不安定で揺れていくあの時期が、不器用だが全力で生き抜いていく佐々木によって体現されている。

楽しみ方を見誤る青春時代はなんか見ていて痛々しくもあるが、あの頃にしか許されない特権みたいなものを見ているようで、ある意味で羨ましく帰れないあの日々に浸りたくなる。

出てくる人たちと同じ青春を知る由はないはずなのに、妙に共鳴しているような感じがして、繋がりを見出したくなる。
いつのまにか自分事として、この物語を追っていた。

とにかく外に出て誰かと関わりを持っていないと生きた心地がしなかったあの多感な時期。
悠二らの中心にいたのが佐々木であり、彼なしでは悠二らの関係は成り立たないくらいの存在であった。

学校という場所は、良くも悪くも世界が狭く、それが人と人を強固に結び続ける側面もあれば、視野が狭くなり今がよければそれでよいという思考にも陥りやすい。
そんな青春の両面が、過去と現在の対比によって感じ取れて、だからこそあの頃特有の余韻とあの頃に残してきた後悔とが同時に押し寄せてきて、何とも言えない気持ちになる。

悠二にとって過去の青春の代名詞である佐々木が、現代の演劇におけるシルバとして再現される。
大切な誰かの存在は、心の中に潜み続けてはいるものの、きっかけがないとなかなか思い起こされない。
あえて目を背けたいときもある。
特に悠二のように選択を先延ばしにしたり、人生に焦りやもやもやを感じて満足し切れてなかったら尚更。

役をきっかけに、久しぶりに佐々木と会った悠二。
佐々木は、高卒フリーターで自称パチプロとなっていた。

今を何も考えずに精一杯生きられる学生の頃と未来を考えざるを得なくなる年齢を重ねて社会人になった今。
何かと周りと比較したりさせられたりするし、生活や人生も人によってより大きく変わっていく。
それでも佐々木は変わらない。だから周りと比較すると、堕ちていってるように見えてしまう。
それが寂しくもあるのだが、佐々木があの佐々木であるままに生きていけてるのは何か少し救いのようにも感じる。

地元でずっと生き続けてる人とそれ以外も転々としながら生きている人。
どちらがよいかどうかということではないが、そこには生きていく中での何か明確な違いがあるような感じがする。
それでも強固な繋がりと繋がり続けたい意思があれば、一度会うとまたあの頃みたいに会話ができる。

バッセンとか教室の感じとか情景とか、まさに田舎で送る学生時代っぽい雰囲気がちゃんと出ていてよかった。
なんかよい意味で既視感があって、とても懐かしくなった。
愛おしくも決して戻らないあの時間が帰ってきた感じ。

佐々木の破天荒な生き様を佐々木だけの視点として描くのでなく、影響を与えられ思いを馳せる悠二の視点からを中心に描いてるので、共感性も高く感情移入もしやすい。

おそらく佐々木みたいな人は実際そんなに多くはいないと思う。
ただし、側にいたら人生が楽しくなるだろう。生きるのが少し楽になるだろう。
影響を与えられて、事あるごとに頭によぎってくるだろう。
そういう意味で佐々木には、横道世之介を彷彿とさせられた。まさに青春に似た男。

そして、本作におけるあらゆる断片が集約されながら青春の原点に回帰していくラストシークエンスはエモすぎて、思わず感極まった。
音楽も相まって何とも言えない感慨深い気持ちに。
鑑賞を終えても、しばらく佐々木コールが頭の中で鳴り止まなかった。

P.S.
物語の構成やそれぞれの人物像の描写、情景や全体的な演出は申し分なかったけど、もしかしたら佐々木コールの一連の演出は人によっては合わないかもしれない。
裸になる意味ってそんなにあるんかなと思ったのは正直なところとしてはあった。
キャストは特に主演2人静かに時々における葛藤を魅せる藤原季節さんと思い悩みながらも動を完全再現する細川岳さん、そして萩原みのりさんがよかった。
萩原みのりさんは特にラストの藤原季節さんとの対峙のシーンが見ものだった。
山拓也監督、まだ20代で商業映画デビューでこのクオリティは凄すぎる。
この年齢だからこそ作れた奇跡的なものでもあるかもしれないけど!